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京都で役者をやっている豊島勇士のブログです。

訓練された俳優 ― 『 ピエールとリュース 』

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昨日の晩、アトリエ劇研であごうさとし演出の『ピエールとリュース』を見てきました。
ひとつには柳沢が出ていたのもあり、あごうさんの演出を見てみたかったのもあり。
 
 
話の内容云々でなく、訓練された俳優の、密度の濃い空気感が素晴らしかったです。
 
 
僕は、芝居とか見るのは特に好きじゃないし映画のほうがよっぽど見てるけど、「ああ、いい俳優のいる舞台をみるのはたまらないなあ」と思いました。
 
あごうさんの演出と、俳優の能力とでもって、すごくピントを絞られた集中力で見ていました。
自分の五感が尖っているのが自分でもわかるような。
 
 
(『ピエールとリュース』の話からは脱線しますが、柳沢のウトイペンコは逆に、凝り固まった意識をふんわり解きほぐすようなアホの柔らかさがあって、それもよかったです。)
 
 
フィリップの、田中遊さんが、よかったです。
 
すごく優しいんだけど厳しさをもって生きている男が、もう格好良くて。
そんなに出番はないんだけど、その声が、居方が、態度が、出てくるともうすぐに意識が吸い込まれるような感じでした。
 
その田中さんのほかに、めちゃくちゃ質感のあるヒデユキ・スコブルスキー平岡さん(変な名前)の語り。ユーモア。
 
 
柳沢も、周りの俳優さんが圧倒的なのにもかかわらず、シーンが続いてくるとどんどん強くなってきて、ソファでフィリップとお父さんに挟まれて、戦争で町の人がどんなふうに変わってしまったかをとつとつと呟くシーンなんかは、すごく濃かった。
 
 
などなど。
 
「ああ、僕はほんと、へたくその芝居ばっかり観てるんだな。
 あのレベルで多少よく出来るの出来ないのって、五十歩百歩だ。」
と思うと同時に、
 「ああ、そういえば僕、訓練された俳優になりたいと思ったんだったな」
 と、思い出しました。
 
何度かこういうふうに思ったことがあって、それは決まっていい俳優が出ている舞台を見たときで。
 
DRY BONES『どらいのなつゆめ』で、ピッコロシアターの保さんを見たとき。
 どくんご『君の名は』で、2Bさんを見たとき。
 飛び道具『四人のショショ』で…名前がわからない。でもいい年の、しっかりした俳優さん。
 
 
こうなれたら。と思いました。
 
間違っても、「あんなにたくさんセリフ覚えられてすごいね」なんて言われない。
 俳優は、"それ"がなんなのかは分からないけど、何かの"専門家"なんだと、分からせてくれるような。
 
 
今通っている、いいむろさんのマイムラボセカンドがすごく楽しいのも、訓練されていく手ごたえがあるからだと思います。
 自分には出来ないことがあって、それが出来るひとが目の前にいてくれて。「真似してみろ」「出来るようになってみろ」って言ってもらえるありがたさ。
 
演劇のワークショップなんかはほんとあんまり手ごたえがなくて、カウンセリングとかコミュニケーション教育にはいいのかもしれないけど、それはやっぱり訓練として積み重ねることを前提にやりたくて。
 
でも、職業としての俳優を目指せなかった僕がどうしたら訓練できるのかはなかなか分からなくて、とりあえず「続けること」を選択した結果、今のような環境に恵まれていることはすごくラッキーだったと思います。
 
 
目下マイムの公演を企画中で、まずまっすぐそれに取り組まなくちゃいけないんだけど、いつかまた、どストレートな会話劇の演技もやってみたいな…と誘惑された公演でした。
 
でも今はまず、マイムをどっぷりやりたいです。