weblog@mazushima

京都で役者をやっている豊島勇士のブログです。

豚の本


僕が所属する部署の事務室は、大学附属の図書館のなかにある。
昼休みにふらっと覗いて本を借りてこられるので、大変結構な立地であります。

そこでこないだ、「思考する豚」という本を借りた。


これはとにかく豚の本で、生物的、社会的、宗教的、文学的と、あらゆる側面から「豚」について掘り返している。

いろんな種類の豚が紹介されていて、馬みたいにスラっとした豚もいたり、怪物みたいなサイズのやつもいたりするということで、「ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜」に出てきたオーロックスを思い出した。オーロックスって牛らしいけど、映画のはどうみても豚だった。ていうか、もののけ姫に出てくるイノシシ神みたいな感じのやつだけど。

文系なので理系的な話は適当に読み飛ばし、文学的に豚を扱った章を読む。そこで取り上げられる作品が、なぜかことごとく読んだことがあるので驚いた。

G.オーウェルの「動物農場」、ゴールディングの「蠅の王」は当然としても、ロアルド・ダールの「豚」、果てはP.G.ウッドハウスの「ブランディングス城の女王(エンプレス)」まで。
実際これらの話はどれも大変面白く、そのなかで豚が代替不可能な地位を占めていることは間違いない。

では、どうして「豚だけが」そこまで独特の意味を持つのか?
それも当然本の中で言及されているわけで、要するに
・豚はダントツで頭がいいから
・(=豚は人間に似ているから)
・豚は食われるから
ということになる。身も蓋もない。

でも実際、豚の特殊さを確認するにはこんな身も蓋もないことが分かるだけで十分で、この本は豚の魅力を存分に堪能させてくれた。

印象的だったのが、著者が平原を散策中に野生の豚と「目が合った」ときの話。
動物園で豚と目を合わせても、豚は人間を見慣れているため、そこにはどこも見ていないような退屈な目があるだけ。
しかし人間との接触が正に「未知との遭遇」であるような平原では、豚と人間はお互いに緊張しながら、訝しげなアイコンタクトを「対等に」交わしたという。著者が敵意のないことを示そうとニコリと笑うと、豚の目もゆっくりと笑ったそうな。
「ホンマかいな」とは思えない。「確かに豚なら笑うだろう」と思わされる。これはそういう本で、なかなか面白かった。